三重大学博士課程学生支援プロジェクト

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研究者紹介

SPRING・フェローシップ制度研究者紹介

Researcher

地域イノベーション学研究科
地域イノベーション学専攻

小西 凌Konishi Ryo

小西 凌
研究テーマResearch theme
2021年の流行語大賞には、「親ガチャ」というネットスラングがランクインした。その含意には「自分の人生が希望通りいかないとしたら、それはくじ運が悪くて外れを引いてしまったからだ」(土井2021)とあり、「自分の努力には限界があって、実際の人生の多くの部分が親ガチャで決まる」という実感が現代の若者の間で生まれている。実際に2000年以降、「努力してもしかたがない社会」(佐藤2000)「希望格差社会」(山田2004)「下流社会」(三浦2005)等、地位達成の実現可能性の階層間格差をめぐる一連の議論が活発化していた。しかし、多くが経済的側面に焦点を当てた研究に留まっており、子どもを主体的な存在として捉えきれていない(志田2021)。そこで、親ガチャの流行から着想をえて、若者が努力についてどのように感じているのか、報われる/報われないにはどのような差異があるのかを階層差を含め明らかにし、そこから、社会学的アプローチに沿って、理論的・実践的な知見を検討することが、本研究テーマである。
研究内容の概要Overview
博士論文では「努力の不平等」「意欲の階層差」(インセンティブ・ディバイド)をベースに、努力は報われる/報われないと考える、その規定要因と影響を明らかにする。「努力有効感」という概念を用いて、4つのResearch Questionを解明する。

Research Question1:誰が努力有効感を獲得するのか
 テストの点数や偏差値といった数値で測れる「認知能力」に対して、意欲やコミュニケーション能力といった数値化できない人間的な力を指す「非認知能力」として、「努力有効感」も捉えたとき、どのような社会階層・家庭環境で育つと獲得するのだろうか。先行研究が示す通り、幼い頃からの家庭環境などによって決定されるのだろうか(本田2005、2020)。

Research Question2:努力有効感は学習時間を伸ばすのか
 非認知能力は、学業成績に正の相関があることが明らかになっている(Wolters & Hussain 2015、清水2018、Lam&Zhou 2019)。努力有効感も、子どもの学業にどのような影響を与えるのだろうか。学校外での学習時間を、子どもの学習意欲として、重回帰分析を行った。

Research Question3:誰が努力有効感を低下させるのか
 新型コロナウイルス感染拡大を背景に、「親ガチャ」―どのような親の元に生まれるかは運次第であり、それによって人生が決まってしまう―が流行り、「自らが主体的に掴み取った属性によってではなく、自分の生まれ落ちた環境や、生まれもった資質、才能といった先天的な属性によって、自分の運命がほぼ決まっている」(土井2019)という、若者の閉塞感が拡大した。その努力有効感の低下は実際に起きているといえるのだろうか。

Research Question4:努力有効感が低くても人生満足度は高いのか
 親ガチャ言説のもう一つの視座に、「努力しても報われない」と諦観を抱く若者が増えているのに対し、生活全般に満足している人の割合は10代後半で増加率が高いという矛盾がある(土井2021)。その実態が、矛盾ではなく、「努力しても報われない」と現実を諦めることで、「現状を変えようとするより、そのまま受け入れたほうが楽に暮らせる」という人生観へのシフトが起きているのではないかということを仮説に、実証に取り組む。
研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society
(1)2007年に日本における子どもの貧困率14.2%というOECDの調査報告を受けて以降、メディアでは子どもの貧困が盛んに報じられ、政策的にも、2013年「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立、2014年「子供の貧困対策に関する大綱について」が制定された。義務教育の就学援助や、私立高等学校等の授業料免除など、子どもの貧困対策が取り組まれている。しかし、課題の一つとして挙がるのは、子どもの学習機会の提供拡大を進めているものの、本人(あるいは保護者)の学業に対する意欲が低いことによって、その支援を受けない、支援を知らないという状態があるということである。そのため、今後は「努力の不平等」「意欲の階層差」(インセンティブ・ディバイド)といった議論の延長にある本研究から、努力できる層と努力できない層の解明は重要であるといえる。

(2)近年において重要性が高まっている、「コミュニケーション能力」(本田2005)や「やり抜く力(Grit)」(Duckworth et al. 2007)といった非認知能力は、文部科学省が提示するように「単元の枠を越えた学習」「自分で『問い』を立て、それを解決しようとする問題解決型の学習」などを通じて育まれるとされ、現行の「探求学習」の推進につながる根拠となった能力だろう。しかし、「能力」と称するためか、育む過程に着目するものの、その「能力の変化」を検討した研究は少ない。認知能力ではない、非認知だからこそ、その変化が明瞭ではないのだが、その分、向上も低下もしやすいと考えられる。本研究は、努力有効感の低下に着目し、その影響として、学習時間の変化、人生満足度の変化を明らかにする。
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