三重大学博士課程学生支援プロジェクト

TOP
研究者紹介

SPRING・フェローシップ制度研究者紹介

Researcher

生物資源学研究科
生物圏生命科学専攻

古川 雄裕Furukawa Takehiro

古川 雄裕
研究テーマResearch theme
「雄クルマエビにおける生殖生理の制御メカニズムを探る」
 世界的に種苗生産や養殖の行われているクルマエビ類であるが,様々な環境下で持続的に生産するために,生殖機能の制御機構を理解することは重要である。私は,水産重要種のクルマエビ(図1)を実験材料に,その雄性生殖器官で特徴的に発現している3種類のインスリン様ペプチド(insulin-like peptide: ILP)を切り口として(図2),『雄の性成熟,特に精子形成がどのように制御されているのか?』について調べている。
研究内容の概要Overview
 インスリン様ペプチド(ILP)による制御システムは動物に広く保存されており,血糖調節,成長制御,代謝制御,寿命調節をはじめとする多様な生理機能を制御している。生殖への関与も知られており,脊椎動物においてINSL3やIGF-Ⅰによる雄性機能の制御が報告されている。エビ・カニ類においては,インスリン様造雄腺因子(insulin-like androgenic gland factor: IAG)と呼ばれるILPが注目を集めている。IAGはエビ・カニ類の雄に特異的な内分泌器官である造雄腺から産生分泌されており,雄への性分化や雄性形質の発現・維持に関わることから,甲殻類の雄性ホルモンと考えられている。クルマエビの雄性生殖器官では,IAGを含め3種類のILPが報告されている。具体的には,貯精嚢末端部にある造雄腺でIAG,輸精管でgonadulin(GON),精巣でinsulin-like peptide 2(ILP2)が顕著に発現している(図2)。このような発現様式から,IAGのみならず,GONとILP2についても雄性機能への関与が想像される。そこで,本種におけるこれらのペプチド性因子が精子形成の制御に関与するのか,遺伝子発現の抑制や化学合成ペプチドの投与などを行い,機能解析を進めている。
研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society
 エビ類では,性的二型として体サイズの性差が挙げられ,オニテナガエビでは雄が,クルマエビでは雌がより大きく成長する。高成長の性のみからなる集団の養殖は生産性の向上に繋がるため,性統御技術の開発が望まれている。水産分野において,単性集団の作出はトラフグやオニテナガエビなどで成功している。これらと同様に,クルマエビでも単性集団の作出に向けた方法が次のように考えられる(図3)。
 本種の性決定様式はZZ/ZW型であると言われており,前述のように雌が高成長であるため,全雌集団の作出が望まれる。そこで,まず通常雌(ZW)を①性転換させることで,偽雄(ZW)を作出する。これに②精子形成をさせ通常雌(ZW)と交配させる。すると,遺伝学的に25%の確率で自然界に存在しない超雌(WW)が出現する。この超雌に③卵形成をさせ通常雄(ZZ)と交配させることで,次世代はすべて雌(ZW)となる。
 これを実現するためには,生殖生理の制御機構をはじめとする生物の基礎的な部分から理解することが極めて重要である。特に,①性転換,②③正常な配偶子(精子および卵)の形成が不可欠である。ところが,クルマエビ類の雄の生殖生理に関する知見は,雌のそれに比べ非常に少ない。それは何故か。クルマエビ類の種苗生産過程では交尾済みの雌個体のみが使用され,生産の主要な過程に雄は現れないためである。しかし,上述した新技術の開発には,雌のみならず雄における基礎的知見が必須であることは自明である。
 本研究では,クルマエビの雄の生殖生理に焦点を当てており,その制御機構の一端を明らかにする。最終的には雄の成熟誘導,先の性統御技術の確立などを通じて,増養殖効率の改善などに繋げていく。
研究者一覧へ戻る
TOP