研究テーマResearch theme

糸状菌のバイオマス分解酵素遺伝子の発現制御機構の解明

研究内容の概要Overview

　糸状菌はカビと呼ばれる微生物で、代表的なものとしては、味噌・醤油・酒をつくる麹菌が挙げられます。糸状菌は多種多様な分解酵素を生産し、植物細胞壁多糖であるセルロースやヘミセルロースの分解にも長けていることから、バイオエタノールやバイオプラスチックなどの原料である植物性バイオマスの分解にも用いられています。しかし、セルロースやヘミセルロースが難分解性であることが、植物バイオマスの効率的な利用の障壁となっています。そこで本研究では、糸状菌のバイオマス分解酵素生産制御メカニズムを解明し、任意の培養条件で安価に酵素を生産できる株の育種に向けた知見を得ることを目指しています。
　糸状菌は環境中に存在する栄養源を感知し、それを分解して資化するための酵素を生産します。この環境応答は遺伝子の転写レベルで制御されています。バイオマス分解酵素も同様に、環境中にセルロースやヘミセルロースが存在する時に、それらを分解する酵素の遺伝子を誘導的に発現します。これには、転写制御因子が重要な働きをしていますが、その作用機構については未解明な点が多く残されています。本研究では遺伝学の解析に古くから用いられているモデル糸状菌Aspergillus nidulansを対象菌とし、セルロース・ヘミセルロース分解酵素遺伝子に特異的な転写制御因子の機能の解析を進めています。

研究成果をどのように社会に役立てるか
（還元の構想）Giving back to society

　セルロースやヘミセルロースで構成される植物バイオマスは再生可能な資源ですが、現在はその多くが利用されることなく廃棄されています。植物バイオマス利用の律速となるのが酵素生産にかかるコストが高額であることだと考えています。酵素生産コストを下げることができる、すなわち研究成果をもとに酵素高生産株を育種できれば、廃棄されている植物バイオマスをさらに利用できるようになります。植物バイオマスをより有効活用できるようになると、石油など有限資源の代替としてバイオ燃料やバイオプラスチックの合成がより安価にできるようになります。また、食品残渣や農業残渣と微生物発酵を掛け合わせたパンなどの食品開発、近い将来に動物由来のタンパク質供給が足りなくなるとされている「タンパク質危機」に備えた、麹菌などを直接タンパク質源とするマイコ(菌類)プロテインの開発など、本研究は幅広い応用展開につながる可能性も有しています。
　このように、微生物による酵素生産メカニズムをはじめ、微生物について正しく理解することで、植物性廃棄物の有効利用を効率化したり、その付加価値を高めたりしながら、工業や食などに還元していくことを目指しています。

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