研究者紹介

Researcher

生物資源学研究科
共生環境学専攻

天野 未空Amano Miku

天野 未空
研究テーマResearch theme
「2025年夏季三陸沖集中船舶観測で捉えた海洋前線域の大気境界層構造」
本研究では、2025年夏季に三陸沖で実施した高密度観測データを用いて、海洋前線が大気境界層構造にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的としています。ここで扱う海洋前線とは、暖水と冷水が鋭く接する境界域で、気温・風・雲の形成に影響する特徴的な海域です。また、大気境界層とは、海面などの影響を直接受ける高度約0〜1kmの大気層で、気温や湿度が最も変化しやすい領域です。本研究では、この2つがどのように相互作用し、海上の気象場を変化させているのかを解明します。

図1:大気観測で用いるバルーンと観測機器(ラジオゾンデ)を持つ筆者。
バルーンで観測機器を飛ばし、大気下層から上層までの気温、湿度、気圧などを観測する。

研究内容の概要Overview
 近年、日本では記録的な酷暑の夏が続いています。特に2025年は平年比+2.36℃で観測史上1位、2024年・2023年はともに+1.76℃で歴代2位となりました。つまり、異例の高温が3年連続で続いていることになります。その背景の一つとして、「海の急速な高温化」が挙げられます。海面水温はわずか1〜2℃の上昇でも大気に大きな影響を及ぼすことが知られていますが、三陸沖では平年比+4℃以上の異常高温が観測されています。この海洋高温化の主要因は、黒潮続流の異常北偏です。通常、黒潮は房総半島沖で本州から離れ東へ向かいますが、近年はさらに北へ蛇行しています。その結果、暖かい黒潮系の水と冷たい親潮系の水が鋭く接する「海洋前線」がこれまでより北の、三陸沖に形成・強化されています。
 しかし、「高温化した海や海洋前線が、大気(温度・風・湿度・雲など)にどのような変化を引き起こすのか」については、現場観測に基づく研究が不足していました。
 そこで2025年6月下旬に、三重大学の練習船「勢水丸」、海洋研究開発機構の研究船「新青丸」、陸上観測点として岩手県大槌町の「東京大学 大気海洋研究所 大槌沿岸センター」の計3地点で、同時観測を実施しました。1時間間隔で62時間に亘る連続観測を行い、海洋前線周辺の大気・海洋データを高密度・高解像度で取得することに成功しました。現在、この観測データをもとに、
  • 温暖化した海上で大気境界層構造がどのように変化するのか
  • 海洋前線特有の大気応答メカニズムが存在するのか
といった視点から解析を進めています。本研究を通じて、急速に変化する三陸沖の海と大気の関係を科学的に明らかにすることを目指しています。

図2:海洋前線周辺で霧(下層雲)が観測されている様子

研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society
 三陸沖では、海面水温の上昇と夏季の高温の関連性が指摘されてきました。しかし、「海の影響がどこまでの高度に及ぶのか」「大気構造がどのように変化しているのか」といった具体的な仕組みは、現場観測の不足により未解明のままでした。
 本研究によって、海の状態と大気の変化の対応関係が整理されれば、例えば以下のような分野での活用が期待できます。
  • 農業:高温リスクの事前把握、品種選択や作付時期の検討
  • 漁業:漁場形成の予測、資源管理
  • 防災:濃霧・強風・局地的高温などの発生傾向の把握
  • 地域社会:観光・健康対策・まちづくりへの活用
さらに、三陸沖観測から得られる知見は、この地域に限られたものではありません。海洋温暖化と大気変動が同時に進行する状況は、日本の他海域や世界の沿岸域でも進んでいます。本研究で得られる知見は、こうした環境下での海洋―大気相互作用を理解するうえでの基盤となります。気候変動に適応しながら安全に暮らせる社会づくりに貢献することを目指しています。
研究者一覧へ戻る