研究者紹介
Researcher
生物資源学研究科
生物圏生命科学専攻
HU PINYI

- 研究テーマResearch theme
- 三重県の伊勢湾沿岸域に生息するユビナガホンヤドカリには2種の等脚類が寄生する。本研究では、この2種の生活史を明らかにするとともに、種間共存メカニズムを解明する。
- 研究内容の概要Overview
- 等脚目エビヤドリムシ科は、カイアシ類を中間宿主、十脚類を最終宿主とする外部寄生虫類である。ユビナガホンヤドカリの腹部に寄生するエビヤドリムシ科には、ヤドカリノハラヤドリとヤドカリノオジャマムシの2種が知られている[図1]。私は、これら2種の生息を伊勢湾で初めて確認し、以来、ヤドカリへの寄生生態の解明を野外調査や室内実験を通じて進めてきた。その結果、幼体では野外の同一宿主個体から2種が同時に頻繁に観察された一方、成体になると必ずどちらか 1種しか確認されなかった。これは種間で成長に伴い競争排除が生じたためと考えられる。また、2種の幼生は、最終宿主のヤドカリ類に着底する時期が異なることも明らかにした。そこで、本研究では先に着底する種が生存率を高めることができるという仮説をたて[図2]、着底時期の差が競争結果にどのように影響しているかを飼育操作実験により検証する。

図1

図2
- 研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society - 伊勢湾はかつて多様な魚介類の高い漁業生産力を誇っていたが、沿岸開発や乱獲、環境変動により、生産高の減少が著しいのが現状である。これは有用水産種だけでなく、それらの餌となる小型ベントスの種多様性や生物量の減少も一因と考えられる。ヤドカリ類はそうした小型ベントスの代表であり、水産種の餌として漁業生産を支える一方、背負う貝殻を通じて他の生物のすみかを提供する生態系エンジニアとしての役割も持つ。本研究は、伊勢湾に生息するヤドカリ類を宿主とする等脚類2種の時間的な共存メカニズムを実証的に明らかにすることで、生物多様性の理解と保全に資する基盤的知見を提供する。さらに、地球上に多種が共存できる環境のあり方を考える上で、重要な視点を与えるものとなる。