研究者紹介

Researcher

工学研究科
材料科学専攻

玉野 智大Tamano Tomohiro

玉野 智大
研究テーマResearch theme
極性反転AlN積層構造作製のための反転界面における原子層制御
研究内容の概要Overview
本研究の目的は、窒化物半導体の結晶極性を積層方向において原子スケールで精密に制御する技術を確立し、極性反転界面の原子レベルでの理解を通じて基礎物理を解明するとともに、新規デバイス応用へと展開することである。III族窒化物半導体である窒化アルミニウム(AlN)はウルツ鉱型構造を有しており、c軸方向に反転対称性を持たないため、Al極性とN極性という二種類の結晶極性が存在する。この極性は積層構造における電気的・光学的特性を大きく左右する極めて重要な因子である。(図1)

図 1 ウルツ鉱型構造であるAlNの二つの結晶極性


我々はこれまでに、サファイア基板上にAl極性AlNとN極性AlNを交互に積層し、四層から成る極性反転構造を作製することに成功している。(図2)その結果、極性反転の発生位置が積層前の表面状態や成長プロセス条件に依存して変化することを明らかにした。しかしながら、極性反転位置を原子層レベルで正確に制御する方法は未解明であり、安定したデバイス応用に向けた大きな課題として残されている。そこで本研究では、極性反転界面を高精度に制御する手法として、酸化膜の形成に原子層堆積法(ALD)を用いたAl₂O₃薄膜の導入を提案する。ALDは成膜厚さを原子層単位で制御可能であり、従来法に比べて均一性・再現性に優れるため、極性反転位置のばらつきや結晶欠陥の発生を抑制できると期待される。これにより、結晶極性の自在な制御が実現すれば、深紫外光源を利用した水や空気の浄化、医療用光源、省エネルギー型電子デバイス、高周波通信や次世代エレクトロニクスといった多様な応用が可能となり、持続可能な社会基盤の形成に大きく寄与する。

図 2 四層極性反転構造とその極性反転界面付近の原子像

研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society
窒化物半導体は次世代を担うワイドギャップ半導体として注目されており、その中でも窒化アルミニウム(AlN)は光学、電子、高周波といった多様な分野に応用可能性を秘めている。特に光デバイス分野では、窒化ガリウム(GaN)を用いた青色LEDが社会に大きなインパクトを与えたように、AlNやAlGaNを基盤とする深紫外LEDは、次なる革新技術として期待されている。近年、コロナ禍を契機に水や空気の浄化、ウイルスや細菌の不活化に有効で、かつ人体に安全な230 nm帯の深紫外光源への社会的需要が急速に高まった。しかし現状の深紫外LEDは発光効率が低く、従来のデバイス設計や後工程の工夫だけでは限界に達しており、抜本的な解決策が求められている。
本研究が取り組むAlNの極性反転構造を利用した波長変換素子は、この課題に対する新しいアプローチを提供する。結晶極性を積層方向において原子スケールで精密に制御することで、従来は困難であった発光波長の自在な選択や新規な非線形光学効果の活用が可能となる。これにより、深紫外光源の高効率化や多波長同時発生が実現すれば、水質浄化システムや医療用殺菌装置、携帯型の衛生管理機器など、公共衛生・医療・生活インフラに直結する幅広い応用が期待される。これらは安全・安心な社会の実現に直結し、環境負荷の低減や感染症対策といった持続可能な社会課題の解決にも大きく貢献する。
さらに、高周波デバイス応用の観点からも本研究の成果は重要な意味を持つ。AlNは高い分極特性を有しており、既に強誘電体材料に匹敵する性能が報告されている。しかし極性反転構造の制御不確実性が性能発現を阻害しており、安定的な極性制御技術の確立が不可欠である。本研究で確立される原子レベルの極性制御手法は、高速・大容量通信を支える次世代高周波デバイスの実現に直結し、5G/6G通信やIoT社会の高度化に大きく寄与する。さらに、極性制御に基づく新規エレクトロニクス技術は低消費電力化や高信頼性化を可能とし、エネルギー効率の飛躍的向上にもつながる。
このように、本研究の成果は、光デバイス分野では衛生・医療・環境の課題解決に、高周波デバイス分野では情報通信基盤の高度化に資するものであり、社会全体に広範な波及効果をもたらす。基礎的な結晶成長技術の革新が、次世代の生活インフラや産業競争力を支える技術基盤となり、持続可能で安心安全な社会の構築に大きく貢献することが期待される。
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