研究者紹介
Researcher
生物資源学研究科
生物圏生命科学専攻
幸田 昂Koda Noboru
- 研究テーマResearch theme
- 自身の研究テーマとして、鯨類の雄性生殖器に関する研究を行っている。鯨類はほとんどの種が海に生息していることから、その生態を長期的に観察することは困難である。生体情報は主に漂着した鯨類が対象となるが、漂着機会や個体数の問題、そして腐敗によって得られる情報が限られるという問題がある。そのため、一部の種においては成熟情報といった基礎的な情報ですら不足している。そこで、自身は解剖学的なマクロな視点、そして組織学的なミクロな視点から、鯨類の生殖器がどのような特徴を持ち、その特徴が繁殖においてどのような役割を果たし、それらが鯨類の生態とどのような関係性を持つのかを探求している。
- 研究内容の概要Overview
- 生物の生殖器の構造は種における性選択によって形作られるため、その種の生殖にとって重要な役割があるといえる。陸生哺乳類では生殖器の形態は近縁種においても多様であり、陰茎の形状、副生殖腺の発達度合いや有無などが異なることが知られている。
鯨類の生殖器の構造については、共通した特徴が大まかに知られているものの、長らく解剖学的な研究はなされていなかった。 近年では、様々な鯨種の生殖器に関する報告があるが、生殖器にはどのような種差が存在するかという着目点については不十分であった。加えて、種によっては組織学的な検討がなされておらず、基礎的な情報が不足している。
最近の研究では、ネズミイルカにおいて陰茎の非対称的な形態が膣構造および交尾行動との共進化によるものであると示唆された。そのため、 鯨類においても陰茎の特徴的な構造が、 その種の繁殖戦略を反映している可能性が示唆される。
そこで本研究では、 漁業で得られた新鮮な生殖器試料を用いて、肉眼解剖学的、組織学的な視点から生殖器構造について調べている。肉眼解剖学的観察では、生殖器を構成する各器官の形態等の観察を行い、組織学的観察において、さらなる詳細な構造とその役割についての探求を行っている。
これらによって、知見が乏しい鯨類の雄の生殖器構造の共通点や相違点を比較し、種における繁殖様式の違いを調べている。
- 研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society - 鯨類の身体の構造を理解するということは、鯨類がいかにして海洋という特殊な環境下で進化していったのかを理解することに繋がり、鯨類だけではなく生物全般の進化と多様性の理解につながると考えている。
さらに、種毎における繁殖生態の違いを理解することは、持続的な水産資源の管理において重要である。これにより、再生産率を考慮した精度の高い資源管理を可能にし、鯨類の資源保護と健全な繁殖を支えることができる。また、水族館においての飼育や繁殖プログラムにおいても、種ごとの繁殖生態の理解は、水族館等における飼育個体の健康や福祉の充実、そして種の保存に役立てることができる。
このように鯨類の身体構造と繁殖生態についての研究は、鯨類という種を保全する上での基盤となりうる、重要な研究であると考えている。