研究者紹介
Researcher
生物資源学研究科
共生環境学専攻
蔡 子逸CAI ZIYI
- 研究テーマResearch theme
- 本研究では,作製条件がバイオボードの性能への影響から,本研究で作製したバイオボードと日本の繊維板の業界標準を比較し,提案の有効性を検証する。本研究では、環境保全と資源循環を目的とし、農林廃棄物を実験材料として選択した。
バイオボードを作製するには二つ方法がある。つまり物理的方法と化学的方法である。本研究では物理的方法を採用し、農林廃棄物を原料とし、破砕、浸漬、離解、成形乾燥等の一連のステップを経て、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを含むパルプを生成する。そして、このパルプを金型に充填し、特別な実験条件に従ってホットプレスに通して圧縮と加熱を同時に行い、水分を除去してバイオボードを形成した。本研究のバイオボードは、化学的接着剤を一切使用せず、繊維間の水素結合とヒドロキシ基結合のみに頼って作られている。
- 研究内容の概要Overview
- 本研究では、バイオボードの性能を評価するために、マクロな視点からバイオボードの物性、力学特性、寸法安定性を従来のファイバーボードと比較し、バイオボードが従来のファイバーボードを代替できるかどうかを検討すると同時に、ミクロな視点から、走査電子顕微鏡(SEM)でバイオボードを構成する繊維の構造を観察し、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)で繊維間結合を促進する官能基を分析した。
作製したバイオボードの微細な形態を、走査電子顕微鏡で500倍に拡大して観察した。バイオボードの断面や表面には明らかな不規則な亀裂があり、圧力と温度の上昇に伴い、その長さと幅が徐々に小さくなっていった。これにより、圧力の上昇に伴い、繊維間の接触がより密結合になると考えられる。また,温度の上昇により,リグニンがガラス転移温度に達するとガラス状態から高弾性状態に変化し,その時点でリグニンがゴム状で延長性を持つようになったと考えられる。リグニンはある程度に接着剤の役割を果たし、亀裂を埋めて、バイオボードの性能を高めることが期待できると考えられる。
バイオボードの官能基分析をフーリエ赤外分光法で分析を行った。赤外分光スペクトルを比較すると、官能基領域では、繊維間の密結合を促進するヒドロキシ基とバイオボードの親水性が見られたが、指紋領域ではセルロースやリグニンのC-O伸縮変形バンドも見られた。バイオボード表面の高い疎水性が原因である可能性があると考えられる。異なる条件で作製されたバイオボードは化学結合が似ているが、化学結合の含有量の違いによりバイオボードの性質にも差がある。
マクロ的な観点から、バイオボードの密度や含水率を計算することで、バイオボードの物性を明らかにした。その結果、すべてのバイオボードの密度が0.80g/cm3を超え、JIS A5905に基づくハードボードに分類される。同時に、バイオボードの密度には負荷圧力と加熱温度もたらす影響の差が小さいが、加熱温度を変化させると、バイオボードの含水率に非常に大きな影響を与えることが示された。SEM画像と合わせて考えると、バイオボードの表面や内部の亀裂に大量の空気や水の分子が存在し、繊維間の密結合を妨げている可能性があると考えられる。
機械的特性については、JIS A5908(2014)規格に基づき、バイオボードの曲げ破断応力と引張破断応力を測定した。実験の結果、圧力と温度の上昇に伴い、曲げ破断応力と引張破断応力が徐々に増加し、大部分のバイオボードがJIS A5905 S20の設計仕様を満たしていることが確認された。負荷圧力の変化により、繊維分子と隣接する水分子の化学結合が切断される。これにより、繊維間の分子が近づき、水素結合とヒドロキシ基によって再び結合される。これにより、水分子がバイオボードから分離し、繊維分子間の距離が短くなり、繊維間の緊密な結合と機械的な絡みが助長され、共有結合が形成される。その結果、繊維間の結合が強化され、分子間のファンデルワールス力が高まり、バイオボードの機械的特性が改善された。
加熱温度の上昇により、バイオボードの含水率が低下してリグニンも軟化し、リグニンと繊維の結合がより緊密になる。リグニンのガラス転移温度は含水率と直接に関連するため,バイオボードの含水率が低下により,リグニンのガラス転移温度が上昇することが確認された。そのため、リグニンの高弾性への転換が困難となり、接着剤の含有量が減少される。そのため、温度のみ高めても、バイオボードの機械的特性が持続的に向上することはない。
応用分野について、作製したバイオボードの強度によって、 応用分野が違います、 強度が高い場合は家具や建築材料の断熱材料などに応用ができます、強度が低い場合は植物工場用培地や苗なえボット、農業用マルチ、などに応用になります。プラスチックの代替材料として利用できれば,石油資源の枯渇による資源危機に対応することができる。このバイオボードは生分解可能で環境に優しいバイオマスマテリアルである。本研究で考案した方法で作製したバイオボードは,農業資材,包装材料として利用することが可能であり、作製プロセスにおいては接着剤や他の化学合成剤を使用せず,利用後廃棄しても環境に何ら負荷がかからない再生可能な材料である.
- 研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society - ・産業応用と技術開発:
研究成果を産業界で応用し、新しい技術や製品の開発に貢献する。産業パートナーシップを構築し、技術転移を促進することで、研究が実用的なソリューションに変換される。
・教育と普及:
研究成果を基にした教育プログラムや研修を設計し、それを通じて知識の普及とスキルの向上を促進する。これにより、社会全体の専門家や実践者のスキル向上に寄与する。
・国際的な協力:
国際的な研究ネットワークや協力プロジェクトを通じて、研究成果を国際社会に貢献する。異なる文化や国々との協力により、より広範で有意義な影響を生むことが可能となる。