研究者紹介

Researcher

工学研究科
システム工学専攻

乙幡 陽太Oppata Yota

乙幡 陽太
研究テーマResearch theme
本研究は、農業労働人口の減少と高齢化に対応し、労働集約的な除草作業を自走式除草ロボットにより効率化することを目的としている。農業分野では、労働人口の減少と労働者の高齢化が深刻な問題となっており、特に除草作業は多大な時間と労力を要求する作業である。これは、手作業での除草が主流である多くの農場において特に顕著である。従来の機械による除草方法、例えば刈り払い機やハンマーナイフモアは地上部の雑草を効率的に切断・粉砕し処理できるが、根に対する効果は限られており、雑草の再生を完全には防ぐことは難しい。さらに、トラクターや耕運機を使用した土壌の撹拌による除草方法も生え始めの雑草には効果的ではあるが、地下茎が土壌に残るため、雑草の種類によっては再生のリスクがあり、持続的な除草には向いていない。
一方で、鎌や鍬を使用する手作業による除草は雑草を根ごと圃場から除去できるため、再生の問題を効果的に防ぐことができる。しかし、この方法は労働集約的で、広範囲の圃場においては時間と労力を大量に消費してしまう。また、除草剤を使用する化学式除草は広範囲にわたる除草を効率的に行うことができるが、耐性を持つ雑草の出現という新たな問題が生じる。また、従来研究として、レーザーによって雑草を燃焼させる除草方法や高温の水蒸気により雑草の細胞を破壊する除草方法もある。しかしながら、これらの装置を移動ロボットに搭載した場合、緊急時の安全性確保が難しくなるという懸念がある。
これらの課題に対応するため、本研究では、農業労働者の労働負担を軽減することを目的として、効率的に雑草を根ごと完全に除去可能な機構を搭載した除草ロボットシステムの開発を目指す。
研究内容の概要Overview
雑草を根ごと完全に除去可能な除草ロボットシステムの実現に向けて、最適な除草ツールの選定を行う。選定基準には、安全性の確保、エネルギーコスト、土壌への影響、機構の耐久性、除草効率、製作コスト、重量などが含まれる。
次に、効率的な除草を実現するため、除草ツールの形状やトルク等をパラメータとして最適な条件を明らかにする必要がある。除草ツールの最適な条件を明らかにするため、実際の圃場に生えている雑草と土壌に対して強度試験を行う。具体的には、メヒシバを抜くために必要な引張荷重や雑草の根のまわりの土壌を崩すための荷重を測定する等である。そして、試験結果を基に除草ツールを製作し、除草試験を実施することでパラメータの最適化の結果を評価する。
加えて、広範囲の雑草に対応するためには、除草ツールを開発するだけでは不十分であり、除草ツールを搭載可能なロボットの開発が必要不可欠である。このロボットには、不整地を走行するための走破性を重視した機構を搭載する。走破性を重視した機構により、異なる種類の圃場でも効率的に除草作業を行うことが可能となる。ロボットの設計においては、一人で持ち運び可能な軽量設計を目指し、3Dプリンタで製造された樹脂部品を組み込むことで、機動性と利便性を高める。加えて、除草ツールや駆動系のハードウェアに加え、カメラ等のセンサを用いた制御システムを組み込むことで、土壌の状況や雑草の種類に応じた最適なロボットの移動速度や除草方法の自動切り替えが可能となる。
これらのアプローチを通じて、効率的で人間にも環境にも優しい除草ロボットシステムの実現を目指している。現在は、除草ツールの形状とトルクの最適化をするために、除草ツールを搭載した四輪駆動ロボットのプロトタイプを製作し、実際の圃場で除草実験を実施している。
研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society
このロボットの導入により、特に労力が必要とされる除草作業が自動化され、農業従事者の身体的なストレスや疲労が軽減される。これは、日々の農作業における時間の有効活用を可能にし、農業生産性の向上に直接貢献する。また、高齢者や体力的に限界を感じている農業労働者にとって、より長く農業に従事することを可能にし、人手不足を解消する一助となると考えている。

また、化学除草剤に代わる物理的な除草方法は、土壌や生態系への負担を減らすことができる。これにより、土壌の健康維持とともに、周辺の水質汚染や生物多様性の損失のリスクを低減できる。さらに、土壌の長期的な生産性を維持し、持続可能な農業実践に貢献することが期待される。

加えて、農業における労働負担を軽減する技術の導入は若い世代に農業への関心を喚起し、将来の農業従事者を育成する機会を提供すると考えている。このように、このロボットは農業分野に新たな活力をもたらし、より多くの人々が農業を持続可能で魅力的なキャリアとして捉えるきっかけを作ることができると考えている。
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