研究者紹介
Researcher
医学系研究科
看護学専攻
岩原 花契Iwahara Kakei
- 研究テーマResearch theme
- 我が国の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は36万2千人(2020年)と推計され、COPD療養者の90%はほぼ毎日息切れを感じ、98%は人生最期の1年間に呼吸困難を経験している。COPDは「成人の人生の最終段階に緩和ケアを必要とする疾患別割合の世界ランキング」において第3位となっており、薬物療法が有効であるにもかかわらず、多くのCOPD患者が苦しんでいる。
この現状を危惧する国内外の呼吸器系関連学会から、COPD治療ケアに関する声明文あるいはガイドラインが発表されており、とりわけCOPD患者のセルフマネジメントを医療従事者が支援することの重要性が強調されている。
その重要性にも関わらず、COPD自宅療養者のセルフマネジメントにおける訪問看護事業所の支援体制の実態や、訪問看護師のセルフマネジメント支援行動の現状は明らかではない。そのため、COPD療養者へのケアを向上させるために、最初の一歩としてCOPD自宅療養者を対象とする訪問看護によるセルフマネジメント支援の実態を明らかにすることが必要である。さらに続けて、セルフマネジメント支援の強化に関連する要因を明らかにすることが喫緊の課題である。そこで、COPD自宅療養者のセルフマネジメントへの訪問看護による支援の内容とその関連要因を明らかにするという目的で、本研究を実施している。
- 研究内容の概要Overview
- COPD自宅療養者のセルフマネジメントを支援する訪問看護の実施内容と、それらの実施に関連する要因を明らかにするために、47都道府県から無作為に抽出した訪問看護事業所の看護管理者1000名を対象として、COPD自宅療養者を対象とする訪問看護事業所のセルフマネジメント支援体制に関する実態調査を行っている。この調査により、事業所の支援体制とそれに関連する組織的環境要因の特定が期待される。この関連の強度を評価した上で、実証段階の介入研究や実装研究につなげる検討を行う。加えて、訪問看護事業所の看護管理者より内諾を得られた事業所に勤務する訪問看護師を対象に、セルフマネジメント支援行動に関する実態調査も行っている。この調査により、訪問看護師の支援行動に関連する要因の特定が期待され、またその関連の強度が評価される。これらの結果をもとに、費用対効果や実施可能性などを含めて次の研究段階への検討を行う。いずれの調査も無記名自記式質問紙調査(郵送法)の横断観察研究である。
- 研究成果をどのように社会に役立てるか
(還元の構想)Giving back to society - 本研究により、COPD療養者の苦痛緩和やQOL向上をもたらすセルフマネジメントに対する訪問看護事業所の支援体制の関連要因と訪問看護師の支援行動の関連要因が明らかとなるため、それらの支援を強化するための科学的根拠を創造する実証的な介入研究および実装研究に有用な手掛かりを与える。
また、訪問看護事業所が実際に行っている支援体制の実態が明らかとなるため、訪問看護事業所が実施可能な支援体制を、支援体制がない事業所に示すことができる。
さらに、この研究成果を国際学術雑誌に公表し、国内外の訪問看護師および看護学研究者に得られた知見を提示する予定である。これにより、COPDで苦しむ自宅療養者のセルフマネジメント向上につながる支援の強化因子に関する本研究を端緒として、COPD セルフマネジメント支援強化の研究が国内外で展開されることが期待される。